中国ナショナリズム 小野寺史郎著 中公新書
(ポイント)
西洋化や日本からの武力圧力から基層社会でのナショナリズムが育っていく。その感情的ナショナリズムを利用して政治活動を行う一方、現実的外交政策の足かせにもなりうる。議会制民主主義でないため、統治の正当性の根拠(国民の利益の代表)を維持するため(みせるため)、傍から見ると必要以上に対外的議論に苛烈になる傾向がある
(抜粋)
19世紀後半、西洋化の流れにたいする、西太后の保守クーデター。
民衆の文化や感情に基盤を持つ下からの反西洋の試みの最大のものとなった
武力により西太后も西洋型政治体制を宣言せざるをえなくなった。
20世紀初頭には、袁世凱が西洋式新軍の整備をすすめる
こうした、上からの近代化政策が基層社会に浸透するのには多大な困難をともなった。また結果として中国ナショナリズムが民衆、伝統、感情を野蛮として抑圧し、知識人、西洋人、理性による文明を推進する展開は、中国の近代国家建設に様々な影響を及ぼすことになる
1915年二十一か条の要求:
中国の主権に大きく抵触する内容の日本からの要求を、袁世凱は飲まざるを得なかった。5月9日が国恥記念日
これ以降、親日派の政治家は非難され、日本は中国の主要敵となった
袁世凱の死後、段祺瑞(だんきずい)が政権を握り、西原借款などの日本の援助をかため対日関係の修復をはかったが、日本軍の中国駐留をいとめ批判される
中国人留学生は大挙して日本から帰国。
政府主導のプラグマテッィックな外交と中国社会のナショナリズムの乖離が表面化
政府は時にナショナリズムをあおり政策動員するが、その突き上げのため選択しを縛られる(プラグマティックな利害調整がむつかしくなる)
文明的、理性的な公定ナショナリズムと民間主導のナショナリズム運動の祖語(P93)
その主たる争点が対日関係だった
1945年には、蒋介石は、共産党との内戦再開のため日本との協力関係が必要という現実的判断があった。このため、民衆のナショナリズム感情抑制に動く
共産党政権にとって、統治の正当性は、社会主義思想時代は人民を導くという論理だったが、市場経済導入後は、国民の利益を実質的に代表することをしめすことでしか正当化できない。
制度上、代表制民主主義ではなく形式的には示すことができないので、共産党統治の不安定な構造である。中国がはたからみて過敏とも割れるほど国内外の言動や議論に神経を多がらせるのはそのためである。
指導者の交代も制度化されていないので、党内で常に激しい権力闘争が行われていること、幹部がなナショナリストから弱腰とみられることを必要以上に恐れる
そして、天安門のように制御不能なしたからの動きや秩序の動揺にたいして警戒心をもっている。(P241)
(感想)
共産党政権での統治の正当性維持(客観性の維持)の観点からは限界に近いようにみえる。一方、民主主義国家はポピュリズムに陥っている国もある。一党独裁の国は往々にして腐敗し、ハイパーインフレ、クーデター、貧困に陥りがちだが、中国はそれが起きていない。ナショナリズムとプラグマティズムのバランスができているというのだろうか?オーナー企業とモニタリング体制の整った株式会社の意思決定のスピードの違いか?オーナーが正しければ迅速に適切な判断ができ、一方民意を代表したはずの大統領が暴走していては次の選挙まで混乱がつづく。民意がナショナリズム感情に支配されてはまた感情ナショナリズムの代表者が大統領になってしまうのでは??